10振動復活への挑戦
時計理論上は理解できても、実際の製造は困難を極めました。課題となったのは、持続時間と耐久性です。
振動数の多い「てんぷ」は、ぜんまいの動力を多く必要とします。「てんぷ」に対して、往復運動を行う力を与え続ける必要があるのです。そのため巻き上げられたぜんまいを十分な時間、持続させるだけの大きなトルクが必要でした。
同時に「てんぷ」からの規則正しい振動で輪列を制御する「脱進機(がんぎ車、アンクル)」の、耐久性の向上も不可欠でした。
これらの課題をクリアするためには、主要部品を素材から見直し、各部品の強度を高めるとともに、部品精度をより一層向上させる必要があったのです。
基本性能を向上させる新素材
9Sメカニカル製造の歴史の中で蓄積されたノウハウや知識をもとに、財団法人 電気磁気材料研究所との共同開発は、精度の要である「ひげぜんまい」の素材を見直すところからスタートしました。
約5年の開発期間を経て辿り着いたのは、新素材「スプロン610」でした。従来の素材に比べて耐衝撃性は約2倍、耐磁性は約3倍に向上しました。
パーツ精度の向上を図るMEMS技術
かつての10振動は、「がんぎ車」の歯数を増やすことで「てんぷ」の回転を速めていました。これは既存のムーブメントを容易に高振動化できる手法ですが、「がんぎ車」の歯数が増えることで、「てんぷ」の挙動にムラが生じてしまう、という欠点を持ち合わせていました。また「がんぎ車」の回転が速くなることで、油切れを起こしやすい点も課題でした。
そのため「キャリバー9S85」では、歯数を増やすのではなく、「がんぎ車」の前に「がんぎ中間車」を噛ませることで、輪列にかかる負荷を分散させる構造を採用しました。
また高振動化に耐えられるよう、パーツの耐久性を上げる必要もありました。そこで半導体の製造技術を応用した「MEMS (Micro Electro Mechanical System)技術」が採用され、パーツの寸法精度を上げ、パーツ表面の滑らかさを向上させるとともに、軽量化も同時に実現しました。
「がんぎ車」は、その形状も見直されました。
駆動効率から考えれば、歯の面は可能な限り平滑な方が良いのですが、平滑にすると潤滑油が拡散しやすくなってしまいます。そこで先端に油溜まりを設けて、平滑な面でありながら保油性も向上させました。
高速振動に必要なトルクと 実用的な持続時間をかなえる
10振動ムーブメントは振動数が多い分、動力を多く必要とするため、大きなトルクを確保できる「動力ぜんまい」が必要でした。そのため「ひげぜんまい」と同じく「動力ぜんまい」もまた、 素材の見直しから財団法人 電気磁気材料研究所との共同開発はスタートしました。
6年をかけて完成した新しい「動力ぜんまい」の素材には「スプロン530」が採用されました。それまでの「スプロン510」をベースに、新たな素材を加えることで、同程度の耐食性、耐久性、耐磁性を維持したまま、バネ力を約6%、持続時間を約5時間向上させることに成功しました。
さらに厚みを増すことで10振動を実現しながら、最大巻上時約55時間持続も可能にしました。
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